FDE(Forward Deployed Engineer)の育成・採用戦略

田中 慎

田中 慎

CEO / PM / Vibe Coder

8分で読了
シェア:
FDE(Forward Deployed Engineer)の育成・採用戦略

こんにちは、AI Nativeの田中です。

以前の記事「パランティアのFDE(Forward Deployed Engineer)徹底解説」では、FDEがどういうエンジニアなのかを詳しく解説しました。

📚 関連記事

FDEの定義を復習

FDE = 顧客の現場に入り込み、実際の業務課題を解決するエンジニア。顧客とコミュニケーションを取りながら、自身で開発を進めてデプロイできる「開発者 × コンサルタント × プロジェクトリーダー」を兼ねる存在です。

本記事では、その続編としてFDEをどう育成していくのか、どう採用していくのかについて考えていきます。

FDEになれる人材は市場にどれくらいいるのか

FDEになれるエンジニアは、市場のどこにいるのでしょうか。

結論から言うと、SES・SIer・コンサル会社にいるエンジニアに一定の適性があると考えています。

SES/SIer/コンサル出身エンジニアの強み

なぜかというと、これらの環境では以下のような経験を積んでいることが多いからです。

  • 顧客とのコミュニケーションがある程度できる
  • 顧客の課題や、潜んでいるオペレーションの細かい部分をヒアリングした経験がある
  • ヒアリングから要件定義し、開発に落とし込むプロセスを経験している
  • どのように開発を進めるか、具体的なところにセットして進める能力がある

toB SaaS企業での経験も重要

もちろん、自社開発をやっていたエンジニアでも、toB事業では顧客のヒアリングをしたり、顧客のミーティングに同席したりという経験があると思います。

こうした顧客同席のもとで開発を進めていくというスタイルは、直近の数年で非常に求められるようになってきました。toB SaaSが伸びてきた時期と重なりますね。

つまり、FDEというのはtoB SaaS/コンサルティング/SIのエンジニアの延長線上にあると言えます。

FDEに求められるスキル・ナレッジ

ただし、FDEには単なる延長以上のものが求められます。

ソリューション提案の幅

今はソリューションの選択肢が増えています。そのため、どういった手段で課題を解決していくのかを見極める能力が必要です。

  • スクラッチで開発してプロダクトに反映すべきなのか
  • クライアントの既存システム内でどのように解決すべきなのか
  • 外部ツールやSaaSを組み合わせるべきなのか

こうした提案して判断して答えを見つけていく能力がFDEには求められます。

経験・数の重要性

これがスキルやナレッジとしてFDEに求められる部分なので、やはり経験や数が必要になってきます。

なぜなら、数がないと:

  • どのように提案すべきか、提案の幅が広がらない
  • どのような予算で何ができるのかが分からない
  • それが本当に顧客のためになっているかの判断がつかない
  • 自社で汎用的なSaaSやエージェントを開発する際に、どこにどのように組み込むべきか勘が働かない

そのあたりは、自社のシニアなエンジニアやCTOにヒアリングしながら進めていくべきでしょう。ただ、そもそもそういった顧客対応の場に出ていくことが必須になってくると思っています。

開発に集中したいエンジニアへの警鐘

エンジニアの中には、あまり顧客と話したくない、開発に集中したいという人もいると思います。

しかし、残念ながらそういう人たちの相対的な価値は下がっていってしまうと言わざるを得ません。

AIによるコーディング能力の民主化

なぜなら、開発のインフラが整ってきている中で、コーディング能力そのものは徐々に汎用化されてきているからです。

AI駆動開発やGitHub Copilotの普及により、コードを書く行為自体のハードルは下がり続けています。

価値のシフト

その結果、「顧客と話して本当に求めるものを作れる人」の価値が高まっていきます

そういった人に良い仕事や報酬が集まっていくので、相対的に「コードだけ書きたい」人の価値が下がってしまうという構造です。

ここはかなり注意したほうがいいと思っています。

例外:個人開発・趣味の領域

もちろん、余暇でソフトウェアを作りたい、ものづくりを純粋に楽しみたいという観点では、自分で開発すればいい話です。アプリやサービスを作りたいなら作ればいい。

ただ、ビジネスや仕事においては、そういったマインドチェンジが求められているのが現実です。

おそらく今後は、FDEというのが当たり前になっていくでしょう。そうならないと、キャリアとしても厳しくなってしまうと思っています。

FDE育成のポイント

では、FDEをどう育成していくのか。

顧客対応の場にエンジニアを巻き込む

育成の観点で最も重要なのは、どれだけそういった場にエンジニアを巻き込めるかということです。

  • 顧客ミーティングに同席させる
  • ヒアリングから要件定義のプロセスを体験させる
  • 提案から実装、デプロイまでを一気通貫で経験させる

評価制度への組み込み

そして、そういったところをちゃんと評価に組み込んでいくことが育成として重要です。

コードの品質や量だけでなく、顧客課題の解決度、提案の質、コミュニケーション能力なども評価軸に入れるべきでしょう。

シニア/CTOへのヒアリング体制

経験の浅いエンジニアが判断に迷った際に、すぐにシニアエンジニアやCTOに相談できる体制も重要です。

必要のないものを作ってもしょうがないので、顧客が本当に求めているものは何なのかを常に問いながら開発できる環境を整えましょう。

FDE採用の課題と戦略

採用を進めるとなると、また別の課題があります。

SIer/コンサル会社との採用競争

実は、SIerやコンサル・SES会社もビジネスモデルを変えつつあります

自社事業としてSaaSやAI BPOをやっていきたい会社が増えており、彼らが求めるエンジニア像も、一般的なソフトウェア企業がFDEを求めるのと同じような方向性になっています。

結果として、そういった会社もエンジニアやPMの待遇を上げたりして、離脱を防ごうとしています。自社との採用競争が激化しているのです。

キャリアの観点での訴求

エンジニア個人のキャリア的な観点から訴求することが重要です。

  • スペシャリストとして深くいろんな領域に関わりを持ってやっていけるのか
  • より顧客に向き合って、本質的な価値を出していける人になれるのか

後者のキャリアパスのほうが、長期的には価値が上がりやすいということを示せるかどうかがポイントです。

詳しいキャリアパスについては、前回記事の「キャリアパスと成長戦略」でも解説していますので、ぜひご覧ください。

OpenAIも東京でFDEを採用中

ちなみに、OpenAIも東京でFDE(Forward Deployed Engineer)の採用を行っています

OpenAIの採用ページから、FDEチームの役割を引用します。

チームについて

OpenAIのForward Deployed Engineeringチームは、お客様と連携し、研究のブレークスルーを実稼働システムへと転換します。ユーザーと深く関わり、レバレッジの高い課題を解決します。プロトタイプからデプロイメントまで迅速に進め、プラットフォームを形作るパターンを洗い出します。私たちは、顧客へのデリバリーとコア開発の交差点で事業を展開しています。製品、研究、そして市場投入(GTM)の各部門と緊密に連携しています。

役割について

フォワードデプロイドエンジニアは、最先端のモデルの複雑な本番環境への導入を主導します。モデルのパフォーマンスが重要で、デリバリーが緊急で、曖昧さが当たり前の環境にお客様と密着します。この経験を活かし、お客様の問題をマッピングし、デリバリー体制を構築し、迅速にリリースします。測定可能な価値を生み出すフルスタックソリューションのスコープ定義、順序付け、構築を行います。また、社内外のチーム間での透明性を高めます。再利用可能なパターンを特定し、ロードマップに影響を与える現場のシグナルを共有します。

出典: OpenAI Careers - Forward Deployed Engineer, Tokyo

これは非常に象徴的な動きです。世界最先端のAI企業であるOpenAIが、日本市場においてもFDEを採用しているということは、「顧客課題を直接解決できるエンジニア」への需要がグローバルで高まっていることを示しています。

Palantir、LayerX、そしてOpenAI。こうしたトップ企業がFDEを採用していることからも、この職種が「未来の当たり前」になっていく流れは明らかです。

FDEの年収目安

Forward Deployed Engineer(FDE)の年収は、日本国内では600万円から4,700万円と、企業や経験によって大きな幅があります。特に外資系の大手AI企業では高額になる傾向があります。

日本国内の年収目安

  • 一般的な範囲: 1,200万円〜2,000万円+ストックオプション
  • 大手外資系企業(例: Palantir Japan): 2,800万円〜4,700万円
  • その他の求人例: 600万円〜

この職種は比較的新しく、特にAI分野での需要が急増しているため、高度なスキルや専門知識を持つ人材は高く評価される傾向にあります。

アメリカ合衆国の年収目安

参考までに、アメリカ合衆国におけるFDEの平均年収は約116,463ドル(日本円で約1,800万円強、1ドル155円換算)です。経験レベル別の目安は以下の通りです。

  • ジュニアレベル: 10万ドル〜13万ドル
  • ミッドレベル: 13万ドル〜18万ドル
  • シニアレベル: 18万ドル〜25万ドル

このように、FDEは高い報酬が期待できる職種であり、特に顧客課題を解決できるスキルを持つエンジニアにとっては、キャリアアップの選択肢として魅力的なポジションと言えます。

まとめ:FDEは「未来の当たり前」になる

FDEという役割は、今後ますます当たり前になっていくと考えています。

AIによってコーディングのハードルが下がる一方で、顧客の本当の課題を見極め、適切なソリューションを提案・実装できる人材の価値は上がり続けます。

育成においては、いかに早い段階から顧客対応の場に巻き込み、経験を積ませるか。採用においては、キャリアアップの可能性を示しながら、競合との差別化を図るか。

これらが、FDE人材を確保していくための重要なポイントになるでしょう。

AI Nativeで一緒に働きませんか?

フリーランスや副業を考えている方で、顧客対応の経験があり、より社会的な意義ある価値を出していきたいという方。
副業・業務委託でAI Nativeに参画してみませんか?

📊

あなたのAI活用レベルを診断

20問・3分で、あなたのAIスキルレベルを可視化します。
個人・法人社員の方、どなたでも無料で診断いただけます。

執筆者

田中 慎

田中 慎

CEO / PM / Vibe Coder

2011年新卒で受託開発/自社メディア企業にWebデザイナーとして入社。1年半ほど受託案件のディレクション/デザイン/開発に従事。2012年株式会社サイバーエージェントに転職し、約4年間エンジニアとしてポイントプラットフォーム事業、2つのコミュニティ事業の立ち上げ・運用に従事。同時に個人事業主としてWebサービス/メディアの開発をスタートし、年間3,000万円以上の利益を創出。2017年株式会社overflowを共同創業者・代表取締役CPOとして設立。2つのHR SaaS事業をゼロから立ち上げ、累計1,000社以上の企業、エンジニア/PMなど3万人以上が利用するサービスへと成長させた。現在はAI Nativeの創業者として、AIと人間の共創による新しい価値創造を推進。